Bar

新しいカクテルの誕生には著名人や文化人が関わっていることが多い。そこで、覚えておけばバーでも自宅でも役に立つ、あの人とカクテルのエピソードを紹介します。いいカクテルは、読んでも酔える。

photography_Takao Ohta   Edit & Words_Kiyoshi Shimizu (lefthands)

 

 

 

 

チャーチルと『マンハッタン』

 イギリスの首相だったウィンストン・チャーチル(1874 〜1965 年)ほど、酒のエピソードが多い政治家も珍しい。彼の名前を冠した高級シャンパンもある。ドライなマティーニが好きで、ベルモットの瓶を眺めながらジンを飲んだとか、執事に耳元で「ベルモット」と囁かせたと思いきや、「声が大きい!」と怒ったとか。まぁ、真相が定かでない話がたくさんある。

 そして、カクテルの女王と呼ばれている『マンハッタン』の誕生物語にはチャーチルの母親が登場してくる。彼女はアメリカの実業家の娘で、ニューヨーク社交界の花だった。1876 年の大統領選挙の最中、彼女は応援する候補者のためのパーティをニューヨークのマンハッタンクラブで開催する。その際、何か新しいカクテルを出したいと彼女が提案し生まれたのが『マンハッタン』だと言われている。

 アメリカ生まれのカクテルなので、ベースにはバーボンやライ、あるいはカナディアンクラブを使うのが一般的。ベースをスコッチに変えると『ロブロイ』と名前が変わる。
ちなみにウィスキーをベースにした、『チャーチル』というカクテルもあるが、名前の由来は定かでない。

 

 

 

マンハッタン

ブレンディング グラスをアンティカベルモットでリンスし、冷凍庫で−20 度に冷やしたオールドグランダッド(バーボン)とノイリープラットを入れ、ステアしてカクテルグラスに注ぐ。チェリーを2 つ刺したカクテルピンを飾る。
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オールドグランダッド バーボン / 50㎖
ノイリープラット スイート / 20㎖
アンティカ ベルモット / 1dash
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ヘミングウェイと『午後の死』

 「金があるときはまずシャンパンを飲む。それが金の一番正しい使い方だ」。そう語るほどシャンパンを愛した、アーネスト・ヘミングウェイ(1899 〜1961年)。1932 年頃、彼はパリに在住していた。ある日、ボクシングジムからの帰りに行きつけのバーに立ち寄り、トレーニングで疲れた身体を元気づけてくれる一杯を所望する。バーテンダーはヘミングウェイがいつも「ペルノは後悔の味がする」と言っていたのを思い出し、その後悔を彼の好きなシャンパンで薄めてみようと考えた。ヘミングウェイはこのカクテルを気に入り、自作の題名『午後の死』という名をつけた。さらに後年アメリカの雑誌『エスクァイア』にお気に入りレシピとして紹介したので、有名なカクテルとなった。その際、ヘミングウェイは「ゆっくり、3〜5杯は飲むように」と書いたという。ちなみにこのカクテル誕生については、ヘミングウェイの悲劇的な死を予感させるエピソードとして紹介している文章もあるので、ご興味がある方はチェックしてみてください。

 

 

 

午後の死

シャンパングラスにペルノを入れ、その上からシャンパンを注ぐ。ペルノは15 種類のハーブから作られるリキュール。美しく澄んだ黄緑色の液体が、水を入れるとミルキーな黄色に変化する。ソーダ割りなどもお勧めの飲み方。
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シャンパン / 70㎖
ペルノ / 45㎖
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ジェームズ・ボンドと『ヴェスパーマティーニ』

 イアン・フレミング(1908 〜64 年)の小説『007 カジノ・ロワイヤル』で描かれ、同名の映画でも登場したボンドの愛するカクテル。ベルモットの代わりにフランス南西部ボルドー産アペリティフワインのキナ リレを使用するのがオリジナルだが、現在は製造中止なのでリレブランで代用することが多い。しかし、こちらも入手は難しいので全てのバーで頼める訳ではない。

 

 

 

ヴェスパーマティーニ

材料と氷をシェイクしてグラスに注ぎ、レモンピールを添える。
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ゴードンジン(冷凍) / 90㎖
ベルヴェデール ウォッカ / 30㎖
リレ ブラン / 15㎖
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白洲次郎と『ジントニック』

 「マッカーサーを叱った男」として知られる白洲次郎(1902 〜85 年)は、舶来品を好みスコッチウィスキーを愛飲した。自宅には英国の伯爵から贈られたウィスキーの樽があったという。カクテルに関してもコンテストの審査員を務めるほど、こだわりがあった。

 軽井沢の別荘で過ごすことが多かった白洲だが、夕方になると「Bar is open」と独り言を言ってジントニックなどを作り、飲みながら暖炉に薪をくべるのが日課だったそうだ。彼のレシピは定かではないが、黄昏時に自宅でジントニックを飲む時間ほど贅沢なものはない。ジンもソーダもよく冷やして、勢いよくグラスに注ぎ撹拌するのがコツ。シャルトリューズやアンゴスチュラビターズなどを自分流のアレンジで1ダッシュ加えるのもいい。

 

 

 

ジントニック

氷の角柱が入った極薄グラスにジンとライムジュースを入れ、トニックウォーターを注ぎ、軽くステアする。冷たさと香りを両立させるため2種類のジンを使うのが『STAR BAR』のこだわり。
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タンカレー ジン(冷凍)  / 45㎖
No. 3 ジン(常温)  / 少々
ライムジュース  / 5㎖
トニックウォーター  / 70 〜80㎖
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倉本聰と『ラスティーペン』

 脚本家の倉本聰(1935 年〜) さんがよく飲むオリジナルカクテル。スコッチウィスキーにドランブイというリキュールを加えたシンプルな『ラスティーネイル』というスタンダードカクテルのベースをバーボンに代えたもの。 “ 錆びた(Rusty)ペン” とは意味深なネーミングではある。

 ちなみに倉本さんが脚本を書いた連続ドラマ『やすらぎの郷』では『カサブランカ』というバーが登場するが、バーテンダー役の女優さんに技術指導をしたのが『STAR BAR TIES』の岸 久さんだった。もちろん『ラスティーペン』もドラマで作っている。このカクテルに限らず、ウィスキーにリキュール、ビターズなどを少し加えただけで立派なカクテルになるので、自宅でぜひ。

 

 

 

ラスティーペン

氷を入れたロックグラスに材料を注ぎ、軽くステアする。ドランブイは1745 年にスコットランドで誕生した歴史あるリキュールで、スコッチとさまざまなハーブスパイスから作られる。ウィスキーとの相性がいいので、ショートカクテルにも使われることが多い。
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バーボンウィスキー  / 40㎖(冷凍)
ドランブイ  / 20㎖
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山崎 剛

今回、カクテル制作に協力していただいた山崎 剛さん。
岸 久さんの右腕として『STAR BAR TIES』のカウンターに立っている。
2017 年度の全国バーテンダー技能競技大会で総合3位、
ベストテイスト賞を受賞した実力派。

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