Driving with Classical Music

かのヘルベルト・フォン・カラヤンもハンドルを握ったポルシェとともに写真に収まる湯山玲子さん。先日瀬戸内海の船上にて爆音でクラシック音楽を聴くイベント「爆クラ アースダイバー」を行なった湯山さんは、ドライブとクラシック音楽のマッチングで新たな快楽が生まれると語る。

 

 

 

Driving with Classical Music

クラシック音楽とドライブする快感とは?

 

スピーカーの前に正対して、またはホールの椅子に身体を沈めてじっと聴くようなイメージがあるクラシック音楽。だが、通り過ぎる風景とともに聴くことで、精神を解放するような、新たな快感を味わうことができるのだ。

Photography_Satoko Imazu Edit&Words_Yukihiro Sugawara

 

 

 

スピード感、エンジンのサウンド、

そうした五感への刺激とクラシック音楽

との組み合わせが、新しい快楽を生む。

 

 

 

 2011年より、クラブでのダンス・ミュージックや最新のエレクトロニック・ミュージックを聴く音楽好きにもクラシック音楽の魅力を伝えるべく、「爆クラ(=爆音クラシック)」というリスニング&トークイベントを開催している湯山玲子さん。もともとサブカルチャーに通じた編集者として知られていた湯山さんは、クラブカルチャーに関しての著作もあり、音楽全般に造詣が深い。だからこそ、リスナーとして、クラシック音楽を最高の経験と位置づけている。「素晴らしい演奏によって、連れて行かれる世界が、クラシック音楽は別格の境地なんです」と湯山さん。

 そして、彼女によれば、「クラシック音楽ほど、車で楽しむのにぴったりな音楽はない」という。

 「クラシック音楽には、時間の移ろいを聴くという側面があります。ポップスなどはメロディとサビが交互にループしていく感じがありますが、クラシック音楽は数十分にわたる構成があり、その間起伏のある音楽的ドラマが進行していきます。それゆえに、ある程度音楽に集中して向き合う必要があります。ドライブの車内空間は、まさにそうしたことにうってつけなんです」

 BGMではなく、クラシック音楽に集中する機会としてのドライブ。まずお薦めなのが、交響曲という。

 「例えばブルックナーだったら、一作品70分前後あるので、結構な距離のドライブが楽しめますよね。ヨーロッパやアメリカなら、アウトバーンや1号線を高速で突っ走りながら、ぜひ楽しんでいただきたい。また、エンジンのサウンドとクラシック音楽のマッチングという面白さもあると思います。車に合うと個人的に思うのは、ロシアの作曲家の作品でしょうか。ストラヴィンスキーとかショスタコーヴィッチのサウンドやスケール感は、エグゾーストノートと相性がいいように思います」

 車がそもそも備えている快楽装置としての特性を倍加させる上でも、クラシック音楽は有効とも。

 「例えばスピード感には、ピアノのサウンドなどが相性いいですよね。テクニックを駆使したリストの演奏、例えば『超絶技巧練習曲 第四番マゼッパ』とかは、高速で車窓を流れる風景にぴったりだと思います。また、窓やトップを開けて、風を感じながら走る時などは、少し色っぽいショパンがいいかもしれません」

 また、クラシック音楽の中で重要な要素であるオペラも、車で聴くものとして合っていると湯山さん。

 「基本的にはオペラは舞台ですが、音楽のみで十分楽しめる作品があります。プッチーニの『トゥーランドット』もそのひとつ。名曲揃いでもあるので、ぜひ通しで聴いて、オペラの全容を味わってもらいたい」

 ちなみに、こうした車でクラシック音楽を楽しむことは、ヨーロッパの国々では普通のことという。

 「ドイツに行くと、タクシーの運転手でクラシックをかけている人がすごく多いし、イタリアではやっぱりオペラが流れてくる。日本人は音楽を聴く場合に歌詞を聞いてしまう傾向があるから、なかなか抽象的な音を聴く快感に慣れていないのかもしれません。せっかくハイパフォーマンスな車で、スピードやエンジンサウンドなど五感に訴える快感を楽しんでいるのなら、ヨーロッパの人たち同様に、クラシック音楽がもたらす快楽も味わってもらいたい。そして、エンジンのバイブレーションや過ぎ去る景色、さらにはドライバーの前に常に広がる空の存在感とともにクラシック音楽を体感することによって、まったく新しい境地が身体に訪れるかもしれないと、私は思っています」

 

 

 

 

__________________________________________________________________________________________________

 

 

 

著述家、ディレクター

湯山 玲子

 

出版、広告の分野でクリエイティブ・ディレクターなどとして活動。同時に評論、エッセイストとして文化全般に関して活動。著書は『クラブカルチャー!』( 毎日新聞出版局)、『女装する女』( 新潮新書)ほか多数。また、月一回のペースで、爆音でクラシックを聴く「爆クラ」イベントを開催している。

 

__________________________________________________________________________________________________

BACK TO INDEX

pagetop