Special Interview

JAGUAR F-TYPE CONVERTIBLE

ギネスに認定された光学式プラネタリウム「MEGASTAR」シリーズや世界初の家庭用レンズ投影式プラネタリウム「HOMESTAR」シリーズなど、それまで誰も見たことがない宇宙空間を次々と描き出し、人々に夢とロマンを与えているプラネタリウム・クリエーターの大平貴之。「人間は可能は証明できるが不可能は証明できない」という信念を貫き、新たな可能性に挑み続けている彼が、遥か遠い光年からの輝きに見ているのは、我々人類の明日だった。

Photography_Eric Micotto Words_Kiyoshi Shimizu (lefthands)

 

 

 

 

“ 南半球の天の川が立体的に見えた” 

 

 大学生のときに、個人製作は不可能と言われていたレンズ投影式プラネタリウムを完成させて以来、世界を驚かせる宇宙空間を創造し続けている大平貴之さん。「宇宙をテーマにして社会の未来を考えるきっかけをつくるのが僕の仕事」と語る彼は、星空にどんな願いを込めているのだろうか。

 

 

プラネタリウムをより身近に感じてもらいたい 

 

 高校生のときにオーストラリアのブラックヒースという街で開催されているハレー彗星観測ツアーに参加しました。でも僕はハレー彗星よりも南半球の天の川が立体的に見えたことに、より感動したんです。本物の星空は真っ黒ではなく、星と星の間にさらに見えにくい星たちがあって、それで奥行きを感じさせるんです。その現実を目の当たりにして、それまで見ていたプラネタリウムに物足りなさを感じてしまいました。あの体験が僕をプラネタリウム・クリエーターにしたのかもしれません。

 

 

 

 

 

 

 僕が98年に発表したプラネタリウム「MEGASTAR-I」は、従来の100倍以上に相当する11等級までの、170万個もの恒星を投影することができます。世界で初めて、天の川を一粒一粒の星の集まりとして映し出すことができたんです。その後、新機種を次々と開発し、投影星数も光学式では最多となる4200万個、デジタル式との融合である「MEGASTAR FUSION」システムを使えば、理論上無限大にまで拡大しました。2016年には初のパーソナルユースを対象とした超小型機種「MEGASTAR CLASS」を発表しました。直径190㎜、高さ240㎜、重さ4㎏と簡単に持ち運びできるほどに小型軽量でありながら、プラネタリウム館と同様に180度の全方向に煌めく100万個の美しい星空を映せるので、個人宅はもちろん、公共施設でもご利用いただいています。

 

 

 

 

 

 

 プラネタリウムはガラスの板にコーティングされた薄い金属にレーザーで穴を開け、そこに光源を当てて星を映し出します。穴の直径は星の明るさによって異なりますが、だいたい100分の6㎜から、1万分の6㎜くらい。レーザーは僕が開発しました。凄い技術だと思われるかも知れませんが、携帯電話のICチップの電子回路に使われているのは10万分の2㎜の穴なんです。その意味では我々の業界はまだまだアナログですね。

 技術的にはさらに小さな星を投影することも可能ですが、肉眼での識別ができないので、それよりも例えば温泉施設で投影するなど、プラネタリウムを身近に感じてもらえる方法を考えたいですね。本体をより小さくして、その結果何ができるのかも追求してみたい。

 一方で、直径1㎞のドーム天井に星空を映し出すことにも挑戦してみたいと思います。野球場などではすでに成功していますが、さらに大きなスクリーン上に宇宙を創造したいですね。技術的な問題は解決しているので、場所さえ確保できればすぐにでも実現できます。

 

 

 

2015 年から参加している種子島宇宙芸術際では、観光名所である「千座の岩屋(ちくらのいわや)」に「MEGASTAR-II 」で星空を投影。打ち寄せる波音や音楽の調べが流れるなか、水が滴る岩壁や地面に解き放たれた星たちがキラキラと瞬き、まるで地球の鼓動と反応しているかのような躍動的で神秘的な宇宙空間を創り出した。

 

 

 

宇宙開発を夢やロマンで終わらせてはいけない

 

 僕がプラネタリウムを製作している理由のひとつは、できるだけ多くの人に地球の未来をもっと考えてもらうためです。宇宙の中の地球に僕らが住んでいるという現実を、世の中の人にもっと知ってもらいたい。宇宙開発は夢やロマンで語られることが多いですが、もうそのレベルでは済まされなくなっています。18世紀半ばに始まった産業革命以降の近代文明社会が行き詰まりを迎えているであろうことは、誰もが感じています。日本でも震災、原発事故後のエネルギー問題は棚上げされたまま。生物種の危機的な絶滅が現在進行形であるという報告もなされています。

 どうすればいいのか。他の星に移住した方がいいと唱える学者もいるし、『風の谷のナウシカ』で描かれたような中世的価値観の暮らしに戻るべきだと主張する人もいますが、どちらも現実的ではありません。

 僕らが当たり前のように恩恵を受けている文明社会が、いまどんな状況にあるのか真剣に考え、話し合う時期なのではないでしょうか。それなのに人間は目先の国益や宗教、人種を優先させて争っているし、各国のリーダーの環境問題に対する姿勢も歩み寄りができていません。そんな状況下だからこそ、国境という概念のない地球として、宇宙規模で考えてみる必要があるのです。

 僕は子どもの頃、「太陽は誰のもの?」と親に尋ねて困らせたことがあるそうです。普通なら「太陽はなぜ光るの?」と尋ねるのかも知れませんが、「誰のもの?」という疑問に、今僕が考えていることが集約されているような気がするんです。太陽を地球に置き換えてみれば、もっと分かりやすいのかもしれません。

 

 

 

2016 年のクリスマスに六本木ヒルズ展望台 東京シティューで開催された「星空のイルミネーション」のプラネタリウムエリアの企画・監修・制作を担当。展示空間内は全面鏡張りで360 度に「MEGASTAR」が映し出した満天の星が広がり、来場者は宇宙空間に降り立ったかのような浮遊感を楽しんだ。

 

 

 

地球外知的生命はなぜ、訪ねてこないのか

 

 地球外知的生命のことも気になります。確率的に言えば、地球外知的生命は存在してもおかしくないですし、今まで発見できていないことの方が不思議なんです。もし発見されれば人類史上最大の発見だし、“彼ら”から学べることはたくさんあるはず。

 その反面、地球外知的生命体については気がかりな疑問もあります。もし本当に存在するならば、“彼ら”はとっくに地球を発見していてもいいはず。映画『インデペンデンス・デイ』で描かれた世界が現実になっていても不思議ではないんです。でも誰もやって来ない。この事実は昔から科学者の間で重要な議論の対象となっていて、文明社会に警告を鳴らしています。つまり、『宇宙戦艦ヤマト』のように数光年という距離を往復できる宇宙船を開発するためには、想像できないほどの年月が必要で、その間に社会が滅びてしまうという考え方です。どんな星でも文明社会は必ず短期間で終わりを迎えるという推論です。悲観的な考えですが、看過できません。

 その他にも、地球の未来については悲観的な予測をする学者もいますが、僕はそう考えたくない。答えがあるのかも知れないのです。その答えを探すためにもっと大きなスケールで考え、国境を越えて協力しなければいけない。そのためにも宇宙の中の地球という視点が求められるのではないでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 星空スポットについては詳しいわけではありませんが、神奈川県に住んでいることもあり、山梨、長野、八ヶ岳山麓付近と西の方にドライブすることが多いです。信州はいいですね。景色も美しくてドライブにもお勧めだし、蕎麦を食べながら眺める星空もいいですよ。福島にも有名な星空スポットがあります。

 自家用操縦士の免許は持っていて、いまワンランク上の計器飛行証明に挑戦しています。単発のプロペラ機なので星を眺められる高度までは行きませんが。宇宙旅行ですか? 火星には行ってみたい気もしますが、宇宙船は窮屈そうなので、星空を眺めている方がいいですね。

プラネタリウム・クリエーター

大平貴之

1970 年、神奈川県生まれ。2003 年、ソニーを退社し、独立。小学生の頃からプラネタリウムを自作し、1998 年、従来の100 倍以上の星を映す「MEGASTAR」を開発。2004 年、MEGASTAR-II cosmos がギネスワールドレコーズに認定。家庭用プラネタリウム「HOMESTAR」(セガトイズ)も開発。国内外施設への設置やイベントプロデュースや音楽、アートとのコラボなど多方面で活躍。

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