かつては政まつりごとに活用されるなど、日本の歴史とも繋がる「日本茶」。しかし現在では、急須で淹れる機会が減りつつある。だが『すすむ屋茶店』の新原光太郎氏曰く「コーヒーより手軽」。その理由と魅力について訊いた。
Photography_Toshiki Hiraiwa Words_Yuka Niimi Edit_Maki Kakimoto
好きな味が見つかれば、日常になる
そもそも「日本茶」とはー。そんな、素朴な疑問を受け止めてくれたのは、日本茶の生産地としても知られる鹿児島で、100年続く製茶問屋が営む、お茶専門店『すすむ屋茶店』代表取締役の新原さん。
「煎茶・抹茶・ほうじ茶、同じ日本茶でもさまざまな種類がありますが、日本で採れたものは基本的に『日本茶』。中でも煎茶は、生産量も、好きな方も多い。だから日本茶=煎茶と捉えて良いでしょう」
そんな日本茶を、選ぶうえで大事にしたいことは「好きか嫌いか」。「まずは、町のお茶屋へ行ってみてください。そして、気になるものを試飲してみる。煎茶の標準として、100gあたり1000〜2000円出せば、十分美味しいものが見つかりますよ。こう聞くと、少し高いような気がするかもしれませんが、茶葉から淹れるとペットボトルと変わらないコストで楽しめるんです」
製茶問屋の長男として生まれた新原さんだが、コーヒーも好き。しかしやはり、日本茶が良い、とも。
「日本茶は、急須に茶葉を入れて、お湯でこすだけ。工程がシンプルなんです。だから、僕は気分を切り替えたい時や、リラックスしたい時、趣味のランニングをする前など、ことあるごとに飲んでいます。おすすめは、その時の状況や気分で、茶葉やお湯の量をアレンジすること。例えば、朝は薄めに淹れて白湯の代わりにするとか、気分を引き締めたい時は濃いめに淹れるとか。セオリーはありますが、自由に楽しんでこそ日常に馴染んでいくと思うので」
選ぶ際にチェックしたいのが種類。日本茶は、大まかに分けると〝ブレンド〟と〝茶葉の品種ごと〟の二種類がある。かつては日本茶といえば、〝ブレンド〟がメジャーだった。
「自然相手ですから、良作・不作があります。でも、日常的に飲むものとしては安定的に提供しなければならない。だから複数種類をブレンドします。ここ5年ほどで、品種ごとに提供するところも増えました」
同じ生産者の隣の畑でも、品種が違えば個性も違う。その魅力を存分に味わってほしいと、『すすむ屋茶店』では、品種ごとでの紹介にも力を入れているのだとか。また、より新鮮なものを、より自然に近い形で提供することも大切にしている。
「焙煎は、弱めに優しく。そうすることで茶葉本来の風味が立ちます」
試飲させてもらうと、それぞれの個性が分かる。香り・コク・舌の上に残る余韻……。同じ湯温・環境・手際で淹れているにもかかわらず、違うのだ。淹れたてから時間が経つと、また印象が変わる。
さらに、食べ物との相性もある。
「日本茶といえば和菓子ですが、品種によって、合うものも違うんです。例えば、どら焼きやおまんじゅうなど、パンチのあるものには力強い緑茶。和三盆や金平糖など、あっさりした和菓子には茎のお茶です」
新原さんが言うには「日本茶はフランスのワインのような存在」。なるほど。確かにワインは、匠のいる素晴らしいものではあるが、一方で、水のように嗜む身近なものでもある。日本でいえば日本茶が、そんな存在なのかもしれない。だから、好き嫌いでいい。新原さんが、最初に投げかけてくれた言葉に、日本茶の答えがあるようだ。
基本の淹れ方
ここでは、基本的な日本茶の淹れ方をご紹介する。用意するのは、急須・カップ・好みの茶葉・お湯の4 つだ。
INFORMATION
新原光太郎
1983 年生まれ。ユナイテッドアローズ勤務を経て、2007 年帰郷。2012 年に、鹿児島の日本茶を紹介する『すすむ屋茶店』を立ち上げ、鹿児島本店・自由が丘・渋谷に店を構える。
すすむ屋茶店 東京自由が丘
住所:東京都目黒区自由が丘1-25-5
☎︎ 03-6421-4142
Open 茶葉 10:00 〜19:00、喫茶10:30 〜18:30
Close 第1・第3 水曜(祝日の場合は翌日休み)
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