FOOD SESSION

千葉県南房総市で有機野菜農場 「田倉ファーム」を営む田倉 剛さん (右)とレストラン「The Momentum by Porsche」の総料理長を務める林 祐司さん(左)。

熟れすぎていたり大きすぎたりといった理由で規格外とされ、廃棄される野菜がある。だが真の美味しさとフードロス削減を目指し、あえてそこに目をつけた“ 規格外” な農家とシェフの出会いから始まる物語があった_。

Photography_Etsuko Murakami Words_Shigekazu Ohno(lefthands)

 

 

 

 

真に美味しい食材を追求しつつ、フードロス削減に取り組む

 

 ジャケットとオーバーオール、ハットとブッシュハット、ジャガーと軽トラ。デコボコ感の際立った2人はしかし、共に連れ立って畑を歩き、土に触れ、葉の匂いを嗅ぎ、野菜を穫る。時に話し声が聞き取れない距離にいても、気心知れた仲であることが雰囲気から伝わってくる。

 スマートな出で立ちの方は林祐司さん。「The Momentum byPorsche」の総料理長を務める人物だ。一方、陽に焼けたアウトドアルックの方は田倉 剛さん。この日訪れた千葉県南房総市の畑で、有機野菜と果物を育てる農家だ。

 

 

 

 

 

 料理人と生産者が、いま立場を超えて共に取り組んでいるのは、熟して割れてしまった野菜や果物、あるいはサイズや形が規格外の野菜を無駄にせず、美味しい料理にして提供すること。二人がそれぞれ胸に抱いてきたフードロス削減に貢献するためのプロジェクトである。

 「田倉さんの野菜や果物は、生で食べても安心安全なもの。自然な土の状態にこだわるから、ほら、畑を見ても雑草は生えているし、虫もいっぱいいますよね。しかもトマトやイチジクは、遠隔地から時間をかけて輸送されてくる未熟な固い実と違って、完熟するまで枝についていますから、味も最高の状態なんです」

 陽の照りつける畑に立ち、額の汗をぬぐいながら、田倉さんが手渡してくれたトマトや丸茄子を愛おしそうに見つめる林さん。この日の夜、まだ香りもフレッシュなままにさっそく店で供されるという。

 

 

 

ハウスですくすくと育つトマト。
林さんの都内からの足になったジャガー初のピュアEV パフォーマンスSUV I-PACE。
美味しそうな丸茄子。さっそくこの日のレストランで供されることに。

 

 

 

 「完熟して実が割れた丸茄子は、ストレスがない環境下で育てられたので、種が少なく身が締まっていてすごく美味しいんです。イタリアントマトは果肉が多くて味がしっかりしているから、煮込むと素晴らしいソースになるでしょう」

 何をつくりたいかではなく、初めに食材ありきの料理という林さんの考え方。セッションのようで、実にワクワクしてくるではないか。

 

 

 

 

Takeshi Takura

田倉 剛

東京都に生まれ、サラリーマンを経て宮城県に移住。農業とイタリア野菜に出会い、33 歳で千葉県南房総市に有機野菜農場「田倉ファーム」を立ち上げる。農業を通じて、真の豊かな暮らしの実践と伝道に取り組む。
takurafarm.com

 

 

 Yuji Hayashi

林 祐司

世界で唯一のポルシェ公認レストラン「TheMomentum by Porsche」とイタリア郷土料理店「Tanta Roba」の総料理長。自ら生産者を訪ね、選りすぐった素材の味を引き出しながら、フードロス削減にも取り組む。
porsche.tokyo

 

 

 

美味しさの中に健康への想いも込めて

 

 手塩にかけた畑に立つ田倉さんは、折からの猛暑に汗をかきながらもどこか楽しそうで、熟れたトマトのように健康的で充足している。

 

 

 

 

 「自然の中で美味しい野菜をつくることで、心身共に健康になりました。しかも僕のやり方で『いいね』と言ってくれる方たちがいます。無農薬なので100植えた内の30 しか穫れないこともありますが、だからこそ提供できる美味しさがあるんです。召し上がっていただく方にも美味しさと健康を届けたいですね」

 

 

 

 

 

 

 そう自らの信念を語る田倉さんを支える一人が、シェフの林さんだ。

 「田倉さんが育てた作物は、ギリギリまで樹にぶら下がって熟しているから本当に美味しいし栄養がある。熟れすぎて少し見栄えが悪くなっても、決して無駄にはできません。

 

 

 

 

 

 

 

 子どもの頃、祖母から『もったいない』の精神を刷り込まれましたが、実はイタリアで修業した時も、野菜の皮は捨てずにブロードという出汁にして使えと教わりました。食べ物に感謝して、無駄なく美味しくいただく―それは国境を超えて継承されてきた大切な文化なんですね」

 

 

 

 

 

 

 

 世界的に食糧難とフードロスという拮抗する問題が取り沙汰される昨今。2人の取り組みを「美味しく食べる」という行為を通じて応援できるとしたら、なんだかそれはとても素敵なことではないだろうか。

 

 

 

2つのレストランで期間限定メニューが登場

 

 田倉ファームで育てられた、美味しくて栄養満点の“ 規格外” 有機栽培野菜を素材に使い、林さんが腕によりをかけて絶品の料理に仕上げる―フードロス削減への取り組みにも繋がるコラボレーションから生まれた特別メニューが、この9 月中旬から登場する。

 体験できるのは、林さんが総料理長を務める東新橋の「The Momentum byPorsche」と小石川の「Tanta Roba」の2 つのレストラン。太陽の下でしっかり完熟させた野菜は、海風がもたらすミネラルのニュアンスもあり、これまでの野菜に対する既成概念を変える美味しさが魅力だという。

 果肉がしっかりしたサンマルツァーノトマトや身の締まった丸茄子のほかに、ドルチェでは、例えば日本ではなかなか出回らない白イチジクや、パッションフルーツなども登場する予定。田倉ファームでは、実はこうしたフルーツにも力を入れているのだ。

 蛇足だが、林さんがイタリアに特注しているオリーブスプレッドと店内で焼かれるパンもクセになる美味しさだ。

 野菜や果物の旬は短く、コラボレーションメニューも期間限定となるので、ぜひこの機会をお見逃しなきように。

※こちらの期間限定メニューは終了しました。

 

 

 

―MENU

田倉ファームで完熟させたサンマルツァーノトマトを使ったガスパチョ。野菜の滋味が心も体も元気にしてくれる。
さっと塩をして素揚げした丸茄子が、香ばしくも食欲をそそるトマトソースパスタ。
あつあつのパンにつけて食べる、林さん特注のイタリア製オリーブスプレッド。カカオバターが加えられていて、ポリフェノールを多く含む。

 

 

 

シェフがイタリアで感じたパッションを、イタリアの伝統ある地方料理を通じて感じてもらいたいと腕をふるう。中でもこだわりの手打ちパスタは、舌の肥えた常連客をも唸らせる逸品として人気。常に新鮮な食材を吟味し、アットホームなイタリア料理を提供する小石川の名店。

 

Tanta Roba
東京都文京区小石川4-18-7

 

tantaroba.jp

 

 

ポルシェセンター銀座に併設された世界で唯一のポルシェ公認レストラン。ポルシェオーナーとファンが、気軽に立ち寄って、一息つき、チャージする場所をコンセプトにしたオールデイダイニングで、アペタイザーから本格グリル料理まで、いつ来ても楽しめるメニューを揃える。

 

The Momentum by Porsche
東京都港区東新橋1-5-2 汐留シティセンター1F

 

porsche.tokyo

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